随想 明日を担う公衆衛生
「島の旅」ブームに思う
野村 茂
1
1熊本大学公衆衛生学教室
pp.437-438
発行日 1966年8月15日
Published Date 1966/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203311
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空を仰げば,満天に宝石をちりばめたような星空,などという実感は私どもの日常から次第に遠ざかっている。しかし,夏の夜に九州の山村,離島でみる星空は美しい。「きらめく星座」などという古い文句がふと思い出される。その空は清澄で俗塵がないのである。「上から下におよぶを風といい,下から上におよぶを俗という」などと講釈されるのをみれば,大気汚染などというのも,下界の営利を追う営みの副産物が上空に及んだものなのだから,これを俗塵と呼んでもさしつかえなかろうというものである。
それはともかく,美しい星空は御神火の大島でも,アルプスの上高地でも仰ぎみることはできるが,眼を一たび地上にうつすと,このような身近な観光地は,雑踏と塵芥で俗化しきっている。俗塵から離れることを願う都会人たちは,秘境探訪とか離島の旅とか,観光の足をのばしていく。そのため,ここ数年はこういう意味で「島ブーム」とかいわれる。
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