特別企画 産後神経症の周辺
ケース・レポートを読んで
社会学の立場から
母子心中にみる現代の育児状況
越永 重四郎
1
,
島村 忠義
2
1東京都監察医務院
2日赤中央女子短期大学
pp.482-486
発行日 1977年8月25日
Published Date 1977/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205246
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最近の母子心中の動向をみると,昭和20年代の母子心中が「生活—困窮型」を主要な要因とすれば,昭和40年代以降の母子心中は,急速な経済成長に伴う都市化現象から生ずる母親の「社会—孤立型」を主軸として派生した「育児ノイローゼ」が主要な要因となりつつあることを,東京都監察医務院の最近の「親子心中」の研究は示唆している。
このケース・レポートは,このような「育児ノイローゼ」の今日的問題に直面した24歳の主婦の臨床記録である。この患者は5人兄妹の末子で,幼時から甘えて育った。性格は我儘で楽天的な反面,神経質な面をもっていた。昭和47年に,さる大企業のブルー・カラーの夫と結婚したが,第1子出産直後,患者の実家が破産し,両親が夜逃げするというアクシデントに巻き込まれ,ノイローゼとなり,内科医の投薬を受けて立ち直った。だが,第2子出産直後からすこし様子がおかしくなった。夫が会社から帰宅してもバーッとした困惑状態が多くなり,食事や家事,子供の世話が十分行き届かなくなっていった。そして,夫が浮気していると思い込んだり,患者自身もまた,近所に子供をあずけて外泊するようになり,夫婦仲は悪化していった。
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