連載 合併症と妊・産・褥婦
妊娠と甲状腺疾患
水野 正彦
1
1東京大学医学部産科婦人科学教室
pp.50-53
発行日 1973年9月1日
Published Date 1973/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204579
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1.妊娠による甲状腺系の生理的変化
妊娠時には,甲状腺機能亢進症状に似た動悸,頻脈,多汗,神経過敏などの訴えとともに,軽度の甲状腺腫脹をおこすことは稀でない。しかし,これは,大部分妊娠による母体の生理的変化であって,甲状腺機能亢進症による病的変化ではなし。
甲状腺系は,また,他覚的にも妊娠によってかなり著明な変化を受ける。たとえば,妊婦では基礎代謝率(BMR)や,血清蛋白結合ヨード(PBI)は増加し,また甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4),トリヨードサイロニン(T3)の血中濃度も軽度に増加し,これらの点からは妊婦は一見甲状腺機能亢進状態にあるように思われるが,同時に甲状腺ホルモンを結合する血清サイロキシン結合グロブリン(TBG)も増加するため,血中の遊離サイロキシンは増加せず,正常の範囲に止まっている1)。遊離サイロキシンの血中濃度の増加が,真の意味の甲状腺機能亢進症であるから,上記のような妊婦の甲状腺系の変化は,甲状腺機能亢進症を示すものではない。いわば,母体の妊娠による生理的変化である。
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