連載 ほん
「共同体」をめざす人恋いの書
塩原 経央
pp.59
発行日 1972年12月1日
Published Date 1972/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204455
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野本三吉氏の魂の軌跡は,ジグザグのない澄明な澪標である。「共同体」へぐんぐん突走る魂は高潔である。しかし,革命家と異なるところは,ぐんぐん突走りながら,落ちこぼれた部分をわが身一身的担おうとするところであろう。そのために氏はやさしい大きな熊手のような手で,たえず自分の身のまわりをさぐろうとする。息切れて,落伍しそうな者のために,その熊手はかきあつめ抱擁するのである。
しかし,野本氏は,行くてを洞察しながら,自らの人生にスケジュールを組むことはできない。傷つけ傷つけられあう世の中で,凡人のようなやり方で苦悩するのだ。その魂は,まこと的優しい。そしてまことにいのちの実在感を,私たちに与えてくれる。
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