連載 ほん
ひとたび茫然自失の啓蒙の書
塩原 経央
pp.56
発行日 1972年11月1日
Published Date 1972/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204437
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"スケバン とは女子高校生番長のことである。著者は東京近郊の団地に居住する年頃の娘を持つ父親である。通学路線で,高校生たちがたびたび他校生から暴力被害を受けるという話を耳にし,その暴力被害から,自分の娘がたまたま地元の番長に助けられ,その地元番長が自殺に近い交通事故死をしたことを契機に,取材に2年半費して著わされたのが本書である。
全章を18に分け,その性と非行の実態をレポートしているが,おおかたの大入は腰を抜かしそうな世界ではある。それは,大人が孔孟の道徳に立派に生きているのに,という立場からの驚きではない。いや,大人の驚きというものは,いつもそうした手の汚れていない自分を幻想することで,いっそう振幅を激しく高めていくものであるが,少なくとも非行者を非行者として片付けてしまうことのできない問題がある。いいふらされて,少しも解決にいそしもうとしない言葉だけの言葉に,「親子の断絶」というのがある。親子の知性と知性の鎬の削り合いなどという代物ではなく,くらしとくらしのエゴの丁々発止であって,また責任のなすり合いの丁々発止の所以なのだ。
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