巻頭随想
生まれることと死ぬこと
野村 実
1
1白十字会村山サナトリウム
pp.9
発行日 1967年2月1日
Published Date 1967/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203338
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わたしは結核一本の臨床医として40年をすごしてきた.いまでこそ,結核はなおる病気になったといわれるけど,昔の結核は入院すれば半分以上が死んでいったのだから,まことに隔世の感がある.昔といってもけっして大昔の話ではない.終戦後だってそうだったのである.そんなわけだから,わたしは,生きることはあきらめ,死をまっているような患者さんを,治療というよりは,みまもるといった方が正しいような役目を負ってきたわけで,いわば死の医療に従事する医者だったのである.
死の医療などという文字は,本誌をひもとくほどの方々には,およそ耳なれない,なじめない,みるのもいやな言葉であろう.また言葉そのものに矛盾を感じられるだろう.なぜなら,医療とは病気をなおす仕事で,その失敗が死であり,いいかえれば,死ぬような場に医療の意味がないとでもいうのが,医療というもののごくふつうな考え方であろう.
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