らいぶらりい
—大築 邦雄著—ベートーヴェン(大音楽家人と作品・4)
杉浦 衛
pp.46-47
発行日 1966年7月1日
Published Date 1966/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203230
- 有料閲覧
- 文献概要
有名な「エリーゼのために」を知らない人はいないでしょう.彼の39歳のときの作品です.「テレーゼのために,4月27日,L・V・ベートーヴェンの想い出として」と自筆で楽譜に記されております.「エリーゼ」というのは誤りで,TheleseをEliseと読み間違えて出版されたため,今日ではそのまま「エリーゼ」とよばれてしまっているのです.ベートーヴェンの家系を少したどってみましょう.
オランダ人の祖父と,酒商の娘として生まれた祖母,「酒中毒に陥ったあげく,ケルンの尼寺に敗残の身を隔離され」以下略.と,この2人から生まれた3男が父ヨハンでありますが,父ヨハンは,母に似て,意志薄弱で,「結婚して子供ができても,一家を背負って立つ気構えにとぼしく,生活が苦しくても忍耐をもってたてなおす気力もなく,だんだん母親と同じように酒好きとなり,その日暮らしのうさをコップとともに過ごすようになった」のでした.一時は,宮廷のテノール歌手となり20歳頃には,いくらかの俸給をもらっていたのでしたが,だらしのない母親(祖母)の一生をそのまま受けつぎ,「泥酔常習の禁治産者」となり,ベートーヴェンを苦しめたのでした.このような家系にもかかわらず,ベートーヴェンが家の悪習に陥らなかったのは,彼の母親であった,マリア・マグダレーナの尊い愛情のおかげでありました.
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.