連載 私は赤ちやん(最終回)
オンモ
田村 昭子
1
1もと東京警察病院付属高等看護学院
pp.55
発行日 1965年4月1日
Published Date 1965/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202959
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ボクはオンモが大好きである.ひろびろとした外へ出てひやっとする空気を胸いっぱいすいこむ.すぐ目のまえをブウブウ車が動いて行く.大きなイヌがウンウン鳴きながら走って行く.飛行機がまぶしくにぶい音を残して飛んで行く.落下傘が白い花のようにフワフワ降りて来る.つぎからつぎへと変わってゆくオンモへ出してもらうと,ボクは最高にうれしくなってしまう.パパが会社へ行くとき,その大きな肩にゆられてまず朝の外へ出る.雨でないかぎりどんなに寒くても必ずいっしょに行くことになっている.ママがおっくうがっても,ボクはこの日課をぜったいにくずさない.お別かれのバスにバイバイしてひとまず家へ入るる
オンモといっても,ボクは家のすぐまえの畑,すぐ側の道路,近くの公園,ママと行くお買物の町,そんなところで満足なのである.しかしパパもママもボクにいろいろな経験をさせようと,何かと計画する.生まれて7か月目で谷津遊園へ行かされた.ひろびろとした公園に行ったときはいいが,満員電車に押しつぶされそうになって長い間いるのは,本当に閉口する.お正月のときも,毎日毎日志津のおうちだ.一本松のおばさんのおうちだと連れ出されたものだ.ちょうど成田山に行く人たちといっしょになって,背中のボクは息がつまりそうだった.電車が止まったと同時にボクの顔に四角いものがぶつかって来た.
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