連載 私は赤ちやん・9
タッチ
田村 昭子
1
1元東京警察病院附属高学院
pp.25
発行日 1965年1月1日
Published Date 1965/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202895
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最近ボクの周囲は大きく変化した.なぜならば,"タッチ"できるようになったからである.そして今では,なんにでもつかまって,歩くことさえもできるようになった.「"はえば立て,立てば歩めの親心"とはむかしのことで,今では"立てば歩め,歩めば叩け名門校"だそうな,大変ね.」とママは今からボクのさきざきを心配しているらしいが,そんなことはどうでもよい.なにしろ今までは物の一つところしか見えなかったのが,もうそのウラまでも見えるし,たいていのものは,下から見上げていたのに,それを上から見ることができる.これが1人でどこへでも行けたらどんなにすばらしいことだろうと考える,それでもボクにとっては一大飛躍である.
食卓の上のものに手をのばすととどくようになった.テーデルのかどにしっかりつかまって,片方の手でかきまわす時の痛快さ.パパもママも大慌てに慌てて「アー,アブナイ,アブナイ」と近よってくる.それでもボクは,素早くびんやお茶わんをつかんで投げる.とても楽しいことなのに,どうも大人たちにとっては迷惑らしい.
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