連載 私は赤ちやん・7
コレラ騒動
田村 昭子
1
1もと東京警察病院高看学院
pp.39
発行日 1964年11月1日
Published Date 1964/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202865
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8月23日,習志野市コレラ発生の天から降って来た災難に,ボクのまわりは大騒ぎになった.お刺身を食べた大人たちは,ギャーギャー騒ぎ始めた.「何だかムカムカする」とパパ.「私はおなかが痛くなって来た.ママさん,どこの魚屋で買って来たの」とおばあちゃま.お兄ちゃんは平静としているが,まったく大人の体はビミョーなものだ.ボクは離乳を始めているが,大体火が通ったものだからだいじょうぶだろう.それでもママは心配しはじめた.「私たちはいいとしても,赤ちゃんが可哀想よ」一体何が可哀想なのだろう.
予防注射の通知に,ママはホッとしたらしい.生後9か月にしてコレラの予防注射をするボク.おばあちゃまは73年目にして始めてだそうなのに.家の前に出ると,大勢のママさんが,真剣な顔をしてうば車を押し,日傘をさして先を急ぐ.ママも1分も早くとフルスピードでボクの車を押した.それでも列はエンエンと並んでいた.暑い8月26日のお日様が,お兄ちゃんのノドをからし,ボクのキゲンを悪くした.ママには悪いと思ったが,エンエン泣いて頼んでだっこしてもらった.そして待つこと5時間近く.オッパイの時間はとうに過ぎているのに.「死ぬより待つほうがいい」と言っているのんびりした人もいるが,「コレラの予防注射を受けるのに,日射病になってしまいそうだ」とプンプンしている人もいる.ボクも大分気持が悪くなってきた.
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