扉
エキストラ・タッチ
pp.1
発行日 1959年11月15日
Published Date 1959/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910954
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“……今日は,ぼんやりしていて不注意だつたために失敗して,婦長さんから注意をうけてしまつた……”などと日記に書いた夜は,仲々ねむれないこともあるでしよう。“明日はこんなことのないように気をつけよう”と,自分にいいきかせて朝を迎える。それでもその朝は何となくゆううつ。婦長さんはいつもとちつとも変らないにこやかな態度で,昨日のことなど覚えていないような様子なので何かホツとはしたものの,やつぱり頭のどこかの隅に忘れることのできない黒い影がついていて気がしずむ。そんな思いも仕事をしている時,処置室の出入りにフトゆき会つた婦長さんから「今日は特別忙しくて大変ね」と,やさしくいたわられると,今まで何となくおさえられていた重苦しい気持が,いつぺんにどこかへとんでしまつて,カラツと晴れた秋空のように明るく,軽くなり,口笛でも吹きたいみたいになつて,次々に仕事がはずむ。患者さんにもいつもよりていねいに世話をしてあげたり,ものをいつたりして,仕事がとてもたのしくなつた。
この場合の婦長さんのとられた態度を「エキストラタッチ」というのです。主に,上司が部下に,また教師が学生に,先輩が後輩に,といつた場合に多く利用されますが,もちろんそういう場合のみときまつたものではなく誰の場合にでも利用できるわけです。
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