巻頭随想
宝の持ちぐされ
瓜生 忠夫
pp.9
発行日 1964年7月1日
Published Date 1964/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202783
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1963年の11月,わたしは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪れた.新興社会主義国のすさまじい発展に目を見張ったのだが,とくにわたしの注意をひいたものの一つに医療機関の充実がある.1945年,日本から解放されてから,まだ18年,地上のものすべてを破壊し焼き尽した朝鮮戦争の休戦から数えると,たったの十年にしかならぬのに,北朝鮮には無医村というものが,もう一つもないのであった.至れり尽せりの近代的設備をもち,清潔そのものの平安南道中央病院ではじめてその話を聞いたとき,これだけりっぱな病院をたて,しかも完全な無料診療の行なわれている国なのだから,無医村がないというのもホントだろうと思いはしたものの,やはり信じがたい気がした.そうたやすく医師を育てるわけにはいかぬからである.
内科看護婦の車花子さん(25歳)と外科の崔春子さん(22歳)がわたしの疑いを晴らしてくれた.<準医>という制度があって,この準医が北朝鮮のすみずみにまで配置され無医村をなくしてしまったのだそうである.そしてこの準医の多くが看護婦出身のようであった.
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