講座
妊産婦の凝血能
品川 信良
1
,
真木 正博
1
1弘前大学産婦人科
pp.10-13
発行日 1962年5月1日
Published Date 1962/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202327
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1.はしがき
血液が凝固しにくくなつているために,一命をおとす妊産婦があることは,みな様よく御存知のことでしよう.低線維素原血症とか無線維素原血症などと呼ばれているものがそれです.この状態は常位胎盤の早期剥離,羊水栓塞症,死亡した胎児が長い間(通常5〜6週間以上)子宮腔内に稽留している場合などに起こりやすいものです.また一命をおとすほどではないにしても,弛緩性子宮出血と昔から呼ばれている分娩第3期ないしはそれ以後の出血の中には,どうみても子宮の収縮が悪いとはいえず,出血の原因を子宮の収縮だけで片づけてしまうのは無理な症例があります.このことはすでに,大抵のみな様が経験しておられることでしよう.こう考えてくると妊産婦の血液は,非妊時にくらべて凝固しにくくなつているように思われます.
しかしこれとは反対に,次のような事実もあります.何かの目的で妊産婦から採血する際にマゴマゴしていると注射針がつまつたり,注射器の中で血液が固まつて試験管に移されなくなつたりすることがあります.また産褥期の婦人には,白股腫とか静脈血栓症とかいつて,下肢や骨盤壁の静脈の中で血液が固まつて血栓を形成し,下肢が腫脹する恐ろしい病気があります.この病気を予防するために,すべての妊産婦に対してヘパリンやクマリンという血液の凝固を阻止する薬を使用している産院が欧米には少なくありません.
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