今月の言葉
心にゆとりを
田所 八重子
1
1東京都衛生局看護課
pp.5
発行日 1960年6月1日
Published Date 1960/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201914
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今から30年近く前,私が東京市の市立産院で助産婦の実習をしていました当時の婦長さんを,今だに忘れることが出来ないと申しますのは,その婦長さんはその頃たしか27歳位の若さだつたと思いますが,婦長としての態度の立派さ,自分の仕事に確信を持つた人の態度と申しましようか.指導をうけながらも,もの静かな少い言葉の中に,10も20もの数多くのあるものをうえつけられる様な気がしました.今考えて見ますと,それは言葉と同時に,その婦長さん全体からかもし出される.人間的なゆとりのある雰囲気,一芸に秀でた人にのみ見られる.あぶなげのないゆとりとでも申しましようか,そんなものを持つた人でした.どんな異常にぶつかつても,医師との連絡,部下に対する指導,自分の直接なすべき事を実に敏速に,しかも患者は何も気付かない位もの静かな中に,きびきびとなしとげて行く態度,私はこの婦長さんや,婦長さんの手足の様に動いている先輩助産婦さんについて,6カ月の実習期間を頭のさがる思いですごしました.実に「学習は生活すること自体」であり,「学習はなすことによつて学ぶ」という言葉のとおり,私の産院生活は,身についた勉強のよい場でありました.そして幸福であつたと感謝しています.ゆとりのある人,心のゆたかな人,相手を温い雰囲気に包んでしまう様な人,これは一体どこからくるのでしようか.
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