今月の言葉
富士山に想う
柏木 登美乃
1
1東大病院産科
pp.5
発行日 1960年2月1日
Published Date 1960/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201843
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富士山の見えない国で生れ育つた私は,学校の地理で習つたその面影を絵や写真に依つて知るのみだつた.東大の看護法講習科へ入学するために,県庁で受験し合格した者のみが,更に東京で再受験して,合格者が入学許可になる当時の規則であつた.私は希望と不安とのこんがらがつた複雑な気持で上京の旅についた.東海道を東京へ東京へとひた走りに走る汽車の中で眠られぬ一夜を明した時,朝日に照り輝き,大空に高く聳ゆる富士山の霊峯を眺めた一瞬,その美事さ,その素晴しさに狂喜せんばかりに感激し,終生忘れ得ぬ感銘を受けたものだつた.入学して白衣の姿を讃えた芙蓉会の歌は,この富士山の偉容をなぞらえたものだつた.
「ふりさけ見ればそそり立つ,清き尊き姿かな,穢れぬ雪の冠衣て,富容(富士山の偉容)一万二千尺
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