映画紹介
浮草(大映)
外輪 哲也
pp.26-27
発行日 1959年12月1日
Published Date 1959/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201808
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サイレント(無声映画)時代に,小津安二郎監督自身が撮つて好評だつた「浮草物語」の再映画化で,「大根役者」と題して,松竹で摂る予定がかえられ,他社演出になつたもの.脚本はおなじみの野田高梧と共同執筆.前作「お早よう」では,子供を通して,サラリーマン家の哀歓といつたものをさらりと描いてみせ,名匠の腕の冴えを味わわせてくれたが,今度は浮草稼業,ドサ回り一座の哀歓を相変らず低いカメラでじつくりとらえて見せる.
田舎廻りの貧乏一座が,志摩半島の小さな港町に小屋掛けしてつぶれて解散する期間のことを描くわけだが,中心人物は,座長の駒十郎.彼には現在すみ子という座員と夫婦同様だが,この街には,過去に一ぜんめし屋をしているお芳に生ませた清一の親子がいる.道中時々よつていたが,自分のようなヤクザな商売の男を父親と呼ばせては,息子が肩身が狭かろうと,小さい頃から伯父だと言つているが,このことがすみ子に知れ,嫉妬.さらに郵便局に勤めながら上級学校に進むべく勉強している清一と,座員加代との愛情がからむ.例によつて例のごとく,ストーリーらしいストーリーがない随想風の作品で,小津独特のユーモアや人物描写を通して,人生の機微に触れ,旅芸人の根強さと微苦笑する哀れさをさらりと描くもので,一種の人情物と言うことが出来よう.
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