今月の言葉
これからの母子衛生
松尾 正雄
1
1厚生省母子衛生課
pp.5
発行日 1959年11月1日
Published Date 1959/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201779
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日本の母子衛生に関する統計は,例えば乳児死亡率の順調な低減や乳幼児体位の向上などたしかに明るい面を示している.これとてもまだ努力の余地の多いことは外国の数値に比べても明らかである.しかし残念なことは,皆さんに最も関係の深い妊産婦死亡率がひとりわが国だけ高く取り残されていることである.戦後殆んど不変のまま出生万対17位を続けている.この死亡率の高いことには一部には人工妊振中絶のように出生に至らぬ妊振の多いことから統計的に問題にする論もあるが,最大死因である妊振中毒症のような妊振末期の死亡が不変且つ高率であることを見ても,わが国の母性のおかれている衛生状況が決して満足すべきものでないことは明らかである.母体がこのような状態におかれていることは大きく分けて2つの影響をもつている.1つは母体それ自身の健康と生命にかかわる問題であり,他は出生児に対する影響である.中毒症1つを取り上げても出生に対して万対7に近い死亡率は結核などに比して高いものといわざるを得ない.母体の死亡は家庭にとつても重大な問題である.何としても防止に努力を傾けなければならない.出生児に対する影響は,妊娠中の疾病,栄養不足,過労等或は分娩時の異常が未熟児や脳性小児麻痺,精神薄弱児等の問題児の原因と見られる場合が多く,また乳児死亡率が減少したとしても新生児死亡の比重が増大し先天的原因による死亡の改善が少いという実態にあらわれているのである.
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