随筆
産婦人科こぼれ話(5)—運命
中山 安
1
1東横病院
pp.54-55
発行日 1958年1月1日
Published Date 1958/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201408
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ときどき,東横電車の急行というのに乗る.たいていレコードをかけている.はるこおろうのはなの宴——.ふだんならば騒々しい車輪の音も音楽のリズムと調和する.乗客は,うつとりとなる.愉しそうである.
もしかして,この急行が衝突でもしようものなら,また,レールがゆるんで横たおしにでもなつたらどうだろう.愉しい音楽もあつたものではない.たちまち阿鼻吁喚,生地獄と化するのである.汽車にせよ飛行機にせよ乗り込むまでは,そんな事件など他所ごとであつて,よもや吾が身にふりかかることではあるまいとおもつていたにちがいない.ところがそうしたことは,あり得る事実なのである.この事実を,われわれは運命という得態のしれぬ言葉でかたずける.
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