保健婦の眼
こぼれ話
淡島 みどり
pp.40
発行日 1953年12月10日
Published Date 1953/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200650
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朝の混雜した電車が急停車したとき,車内でいい争いがはじまつた.一人の人夫らしい男が隣の人に向つてひどくおしたのがけしからんと怒つている.おした方の人は,ひとりの力でおしためではない,車内の人全体の壓力でそうなつたのだから隣の私ばかり仇のようにせめられても仕方がないではないかとおだやかに辯解しているが,片方は一向にきき入れない.他の乗客は急にしーんとして誰もたしなめようともしないで状勢を靜観している.
何時かの新聞に出ていたが,朝晩のラツシュ・アワーの通勤に消耗するエネルギーは1時間当り200カロリーになるということであつたが,戰後と大差のない位の換気のわるい電車で,あぶら汗をかきかき出勤するのは全く苦痛そのものなので対人関係などと云々ちようちようするいとまもなく,こんなとるに足らない些細な事がこんがらがり,人の目も三角になりがちなのである.
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