海外見聞記・14
留学こぼれ話
中村 宏
1
1慶大泌尿器科
pp.883-884
発行日 1964年9月1日
Published Date 1964/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491203876
- 有料閲覧
- 文献概要
一年間の留学期間と云うのは非常に短かいものであつたが,これほど充実した一年間を未だかつて過ごしたことはないし,これからも恐らくないであろうと思われる。何事につけ合理的に出来ている国なので,レジデントの生活も,泌尿器科の臨床を勉強するのに万全のお膳立てが出来ていた。誰でもそのプログラムについて行きさえすれば,自然と身につくようになつていた。一切の雑事に追われず勉強にだけ没頭出来るので能率も自ずと異つて来る。
私は日本人の頭脳がアメリカ人のそれに比して決して劣つているとは思わない。しかし合理性と云う点で能力を十分発揮出来ない面が多過ぎるように思う。言葉を変えて云えば分業の未発達とでも云えようか。アメリカの医者は医者でなければ出来ない医術を施していればよく,看護婦は患者の看護をしていればよい。極めて当り前の話しなのであるが,我々は余りにも医者の本来の仕事とはかけ離れた事務や雑事が多過ぎる。看護婦も看護学の知識を必要とする仕事はごく一部で,大部分の時間を雑役と無用の事務に追いまわされているように思う。プライヴエィトとウォードの患者を合わせ60-70人に及ぶ患者を4人のレジデントでやつて行けるのも,日本では我々がやらなければならないことを,他の誰かがやるようになつているからこそ出来るのである。
Copyright © 1964, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.