随筆
産婦人科こぼれ話(命名)
中山 安
1
1東横病院
pp.54-57
発行日 1957年11月1日
Published Date 1957/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201372
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お七夜までには必ずといつてもいいように,「命名」と書いて,各自,親の好みの名前が和紙に認められ,床の間あたりに貼りつけてある.なごやかないい気持で拝見するのである.この赤ん坊が終生呼ばれる名まえであつてみれば慎んで二,三回読みなおすわけである.ことに助産婦や産科医師など体内に宿つて間もなき頃から生まれおち其の上産湯までの世話をしたものには感銘ふかいものがある.「いいお名前ですね」と賞めるのが常であるが,ときとして珍妙な名をみると,どうにも困ることがあつて,いきなり結構ですねとほめるわけにゆかない場合にぶつつかる.おもわず吹き出したくなるほどのものもあるが,そうも出来ないので,このお名は,なにか,いわれがあるのですかとおたづねしてまぎらすことも稀ではない.このあいだもテレビをみていると,大久保という家の幼児が彦左衛門となつている.あの講談の彦左衛門の子孫ででもあるのかと相像してみたり,この児のお祖父さんあたりに彦さんというお百姓でもいたのかと思つたりした.
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