随筆
欧州・アイスランド旅行記(2)
瀬木 三雄
1
1東北大
pp.65-71
発行日 1957年11月1日
Published Date 1957/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201377
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.工場の国ドイツヘ
ライン川沿岸の大工業地帯が眼下に展開して来る.空からみるドイツの第一印象は,大工業国に来たという感じである.煙突からもうもうたる煙が出て,ドイツの底力を示している.ドイツはこの工業の力で,50億ドルの外貨と金(きん)をかせぎためた.1951年以来6年間のことである.日本の外貨が2年位の間に10数億のドルから2億ドル位に減つてしまつた間に,ドイツはかせぎにかせぎ,金がうなつて困つているのだ.勿論,その原因はドイツ人の勤勉と合理性にある.日本の国が自分不相応の役所をたてたり,無駄なところに金を費つている間に,ドイツは工業生産力の増強に金を注ぎ込んで,今やその産業復興は世界の奇跡といわれるに至つた.かつて,ヒトラーが戦争準備に狂奔していた頃,国をあげて兵営の観があつたが,今は国全体が工場の感がある.
フランスはこの8月フラン貨の2割引下げを発表した.1ドル350フラン(即ち1フランは略々1円)という換算率が維持できなくなり,自分の国のかねの価値を2割方引下げることを発表したのである.ドイツでは反対に1ドル4.19マルク(1マルク約86円)の率をもつと引上げよという説が流布している.珍しい平価引上げ説である.今の換算率ではドイツの物価が安く輸出が盛んになりすぎ,国内に金がたまりすぎて却つて困つているのである.ドイツでは輸入を奨励している.輸出一方では外国が承知しないからである.
Copyright © 1957, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.