随筆
石
外輪 哲也
pp.67-68
発行日 1957年10月1日
Published Date 1957/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201360
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人間はしよせん我侭に出来ているが雨が降ればむさくさすると言い,日でりが続けば一雨欲しいと言う.これは人情だが,この人情故に人間は不変をほこるものに惹れるのだろう.その一つに石がある.今がはやりの放射能雨もどこ吹く風で,がんとして受けつけていない.むしろ,黒々と光沢を増して美化して来る.
人間が何故石を好むか——それは石の持つ「冷たさ」「厳しさ」といつた魅力につきるようだ.人間のいいかげんな感情や理性ではおおよそたちうち出来ないものを持つているからである.黒い石と白い石,黒い冷たさと白い冷たさ,石ほど無表情にして表情を持つているものはない.宇治山哲平(国学会)は石を画いて有名だが,石と対決するにはよほどの勇気を必要としたことだろう.
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