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掻爬(そうは)ダコの話
奈良林 祥
1
1杉並保健所
pp.40-41
発行日 1956年2月1日
Published Date 1956/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201002
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私の右のおやゆびの附け根に,今ではもうそれと分らないほどに小さくなつた一つのタコがあります.すつかり小さくなつてしまつたせいもあつて,そのあることも殆んど忘れかけているのですが,何かの折にふと眼を触れると,心の痛みと共になつかしく眺め直します.
その昔は,掌に出来た竹刀(しない)ダコの固さがよく若者の自慢の種となつたものですし,指のペンダコと云うようなものも,きつと誇るに足る勉学の名残りなのでしよう.然し,私のタコはそれほどでもない,およそ自慢にも誇にもならない代物なのです.ひいて命名するならば,掻爬(そうは)ダコとでも云うのでしようか.10年程の婦人科臨床医の生活を通して人工妊娠中絶術を幾つとはなくやらされた結果出来た,奇妙な記念碑なのです.
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