講座
膵臟
内藤 聖二
1
1東大田坂内科
pp.36-40
発行日 1955年3月1日
Published Date 1955/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200809
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胃が上腹部にあつて,虫巣,俗に盲腸が右下腹部にあることは10人中9人迄が知つているが,さて膵臟となるとあることを知つている人が78人で大部分の人は何処にあるかもどんなものかも知らない.衞生に関係ある人々といえども正確にあり場所を答えてくれる人は少いのである.昔の人は人間,動物の臟器をわけて,五臟六腑と称したが,この五臟の中に膵臟がみあたらない.実際脂肪の塊のようにぶよぶよした軟かい臟器であるから,みのがしてしまつたのではなかろうか.今日でも膵臟のことはわれわれの生活に殆ど関係がないように見えており,腹痛があつても,慢性の消化不良があつても自分が膵臟の病気であると考える人はいない.少しでも私の臨床例で患者が膵臟が惡いと思つて来たのをみたことがなく,また膵臟が惡いということを患者または家族に告げるのには毎回苦労させられるのである.また臨床の統計からいえば,膵臟に関係ある病名が非常に少く,実際は相当数あるものと考えられるにもかかわらず,診断が非常に困難であり,また診断方法が確実なものが少いのであまり報告されていない.
しかしながら膵臟内分泌系の病気である糖尿病については,多数の人人がこれを知つている.良く汚穢くみとりの人々が糖尿病患者の家の糞尿の異臭から,糖尿病を指摘するのを耳にする.
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