社会の動向
20世紀の後半と日本
長谷川 泉
pp.36-37
発行日 1955年1月1日
Published Date 1955/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200774
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また新しい年がめぐり来る,年頭に際しての感懷は人おのおのによつて違うであろうが,ひとしく1年の反省の上にたつて新しい希望と期待を脈管にたぎらすことであろう.今年こそはという気持がわいてくるに相違ない.それぞれの地位それぞれの生活を背景として,それは千差万別であろうとも,明るい明日が望み見られれば幸である.
なかには,今年は駄目らしい,困つたことになりそうだというような不吉な予感の上に暗い気持を抱くものもあるであろう.暗い未来におののいて「如何なる星の下に」と,嘆くものもないとは限らない.だが,大体において人間は楽観的に出来ている.お互の精神構造を反省してみても,それこそ明日短れぬ生命を持ちながら,案外逞しい生き甲斐を感じて期待の上に乗つた生活を送つているようである.ことに日本人は楽天的な天性を持つて生れているのであろうか.日本の美しく和らいだ自然が長年月の間にそのような人間類型を作りあげたものかはしらぬが,くよくよと年頭に当つて思いわずらうことは少いようである.元日が年を1つよけいにとる日,冥途の旅への一里塚であるというようなひねくれた考え方は,満年令を採用するようになつたためになくなつたばかりでなく,本質的に日本人の体内には明るい性格と,期待の上に生を充実させて考える考え方がひそんでいるようである.
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