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読後の感想
木下 正一
pp.38-40
発行日 1954年11月1日
Published Date 1954/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200733
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読後の批評を書くようにと,編輯室から依頼をうけたけれど,こういう内容のものに対して,理路整然と批判を下すことは,どうも私の力には及ばぬことです.やむを止ず筆をとりはしたものの,ただ一篇の感想をのべるにすぎません.
先づ第一に,この文の投稿者がソ聯の科学書(主として生物・植物の書物)を熱心に読んでおられたということで,ただそれだけの理由で,病院の勤めを止めさせられたということを読んで,まことにお気の毒に耐えません.読書の自由,思想の自由というぐらいのことは,自由主義を標傍するこの社会に認められて然るべきことにちがいありませんから.しかしながら,私の感想を卒直に述べると,この投稿者が病院を止めさせられた理由は,ただそういう科学書を沢山読んでいたからというだけではないように思えるのです.それというのは,この文章を読むとただこれだけのものに過ぎないけれど,あまりにも現代の2つの思想対立を意識しすぎている.しかも共産主義思想への同情,共感というような気持が強くにじみでているという感じがするからなのです.もしそうだとすると,おそらくはこの筆者の日常の生活・言動のなかにも,そういう気分・傾向が明かに見えていたのではないでしようか.それで,病院経営者の側では,他の従業員に,寄稿者が思想的影響を績極的に波及させるのではないかと恐れて,解職を敢てしたのではありますまいか.
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