紙上美術展
西の京—唐招提寺・1
金子 良運
1
1東京国立博物館
pp.48
発行日 1954年2月1日
Published Date 1954/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200549
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薬師寺を出て西ノ京の駅へ曲る十字路をそのまま眞直ぐに北へ3.4町右手にはるか若草山や奈良の街を眺めながらくずれかかつた築地に添つた道を歩いてゆくと,突当りにあるのが唐招提寺です.この寺は天平宝字3年唐僧鑑眞和尚が新田部親王の邸宅跡を寺地として賜り建立したもので,金堂,講堂,経堂などは全てこの時に建てられたものです.今でこそ堂々と威観を誘る唐招提寺,当時としては一私寺として必ずしもその規模が大きかつたとは思われません.奈良時代の建築は東大寺や薬師寺を初め全国で20数棟現存してはいますが,いずれも塔だとか外堂だとか門のようないわば附属的な建物ばかりで,ここのように金堂,講堂など寺の重要な中心部が残つている例は極めて少数です.
金堂は高い石の基壇の上に建つ正面が柱間7間,側面は同じく4間,寄棟造り本瓦葺の建築で,屋根の両端には鴟尾がのせられています.斜から観ますと正面の1間を明放しにしてあるため,露出した8本の丸柱が四注造りの大きな屋根の端をがつしりと支え内部に深い陰影をやどし,しかもエンタンスと呼ばれる胴張りのある大きな丸い柱が左右になるに從つて段々と間隔をせばめながら立並ぶ有様は実に見事なものです.そして晴れた夜など青白い月光に照された右の基壇にこの8本の影の浮ぶ光景はまさに一幅の画のような感じがします.
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