紙上美術展・4
東大寺③
金子 良運
1
1国立博物館
pp.45
発行日 1953年7月1日
Published Date 1953/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200390
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戒壇院を出て,再び廻廊まで引かえし高い石垣に添つて大佛殿のうしろの方にまわりながら,正倉院の木立の繁みと僧坊跡の礎石を眺めてゆくと,道は少し登り坂になつて「若狹井」の所へ出てきます.眞上に崖から張り出したように建てられている堂が二月堂で,凍てつく冬の最夜中に,妖しくも雅びに操りひろげられるドラマチツクな「お水収り」の行法は,ここで修せられます.見上げる軒の端に優美な姿で知られる二月燈籠がかけられているのも印象的です.
この二月堂の下の平地にあるのが三月堂です.三月堂は正しくは法華堂と呼ぶべきですが,旧3月にこの堂で行事が行われるため,一般には二月堂と竝んで三月堂の名で親しまれています.東大寺の数多い堂舍の中で,創建当切の面影を伝えている唯一のお堂です。もつとも,この建物は2つの部分からたつていて,前んが鎌倉時代に増築された禮堂,後の内陣にあたる所が奈良時代のもので,側面から眺めますと,屋根の棟がくいこんだり,橡がちよつと高くたつたりしているのですぐ気がつくことでしよう.しかしこの2つが数百年を隔てたものであるにもかかわらず,奈良は鎌倉をひきたたせ,禮堂は内陣を庇つて,少しの不自然さを感じさせることもなく互に援け合いながら融け合つている姿は実に美しいものです.
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