紙上美術展
西の京—藥師寺・4
金子 良運
1
1東京国立博物館
pp.37
発行日 1954年1月1日
Published Date 1954/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200525
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「私は前の號に薬師寺のことをブロンズの殿堂だと書きましたが,金堂の薬師三尊像といい東院堂の聖観音像やあるいは東塔の水煙といい,実際このお寺ぐらい素晴らしいブロンズの名品を数多く伝えている所は他では見ることができません.
今の金堂の建物はごく新らしく江戸時代に建てられたもので,とうてい昔の金堂の華麗さはしのぶべくもありませんが,幸に内部に築かれている石の須弥壇は最初のままのもので世界彫刻史の一大傑作とうたわれる金銅造の薬師三尊像がこの壇上に安置されています.水に濡れたような不思議な黒さににぶく輝くブロンズの巨像は,ほの暗い御堂の内に妖しくもロマンな雰囲気をただよわせております.中尊の見るからに端嚴な尊容と力強くしかも堂々たる体躯こそ,まさに理想の男性美を象徴したものといえるでしよう.そしてこれを狹んで両側に侍立する日光月光の二菩薩の豊麗な姿,特に少し内側に腰を捻つて心もち片足を浮せたなまめかしいポーズは中尊とは全く対象約で佛像というにはあまりにも官能的な姿態です.東大寺の大佛の蓮辨の毛彫や戒壇院三月堂の諸像から奈良彫刻の美しさを見出した人々も,この三像で改めてその感情の豊かさと自由なそして驚くべき巧妙な当時の鑄造技術を三嘆されることでしよう.
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