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助産婦の詩と歌
長谷川 泉
,
牧 恒樹
pp.52-56
発行日 1952年4月1日
Published Date 1952/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200090
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佐藤惣之助という詩人は,正規の學歴もなく,商店の小僧などを轉々とし,この間に東京外國語學校の佛語科に學んだりしたこともある。いわばかなり氣まぐれな人生をおくつた人だ。サトーハチローの父で今は故人となつた佐藤紅緑に師事して小説,俳句などをつくつたのち,詩の方に轉じた。佐藤紅緑といえば,ひところの少年もののバック・ボーンをなすような作家であつた。「ああ玉杯に花うけて」とか「少年讃歌」などという作品がそれである。少年の向學心をそそり純情を讃美したことで有名である。
詩人となつてからの佐藤惣之助は民衆詩派に屬して當時の人道主義の影響を受けた作品をよんだが,その後あかるく感覺的で印象的な詩風にうつつていつた。ここにかかげたのは「産婆」をうたつた珍しい詩である。「産婆」という題名から察しられるように,まだ助産婦として新しい途を歩みはじめない前の段階をうたつたもので,今日から見るならば,ここにうたわれている内容は,助産婦にとつては反駁したくなるような内容がふくまれている。しかしこの詩人が鋭い感覺でとらえてみせた内容は必ずしも空想や,自分勝手な歪曲から産み出されたものではなくて,當時の現實のありのままに近い。いつわりのない生態であるともいえる面を多く持つていると思う。
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