Close-up 理学療法士は再生医療に向き合えているか
脊髄損傷に対する再生医療と理学療法
愛知 諒
1
Ryo AICHI
1
1国立障害者リハビリテーションセンター病院再生医療リハビリテーション室
キーワード:
再生医療
,
脊髄損傷
,
機能改善
Keyword:
再生医療
,
脊髄損傷
,
機能改善
pp.936-939
発行日 2020年8月15日
Published Date 2020/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551202007
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はじめに
従来,脊髄を完全に損傷すると麻痺領域の神経機能の回復は困難とされてきた.しかし「中枢神経は再生しない」という従来の常識は,今や明確な科学的エビデンスをもって覆されつつある.現在では分子・細胞レベル,実験動物での神経再生に関する研究成果の蓄積を経て,ヒト臨床症例を対象とした治験が複数の手法で進められ,2019年には骨髄間葉系幹細胞に由来する製剤「ステミラック注」が薬価収載に至ったことに反映されるように,再生治療が現実的な選択肢となる可能性が高まりつつあると言える.従来の機能回復の限界を打ち破る可能性を秘める再生医療は,リハビリテーションのあり方,そこにかかわる理学療法士の立場と役割にも変化をもたらすことが予想される.再生医療の実現を念頭に置いたときに,どのような認識と役割をもってリハビリテーションの臨床を進めていくのかを現実味をもって考える時期に入ってきたと言えるであろう.
筆者が所属する国立障害者リハビリテーションセンターでは,2016年に再生医療リハビリテーション室を開設し,大阪大学医学部附属病院が実施する自家嗅粘膜移植,札幌医科大学が実施する骨髄間葉系幹細胞投与を施された慢性期脊髄損傷症例を受け入れ,術前術後/投与前後のリハビリテーション効果の検証に関する臨床研究を行っている.本稿では自家嗅粘膜組織移植に関する取り組みとこれまで得ている結果を紹介し,その経緯で思い至った再生医療に対する理学療法士の課題について,筆者の考えを述べたい.
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