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はじめに
高次脳機能障害の原因となる疾患は,80%が脳卒中,10%が脳外傷である.これらのうち,発症時もしくは受傷時に意識障害が重篤な例,昏睡期間が長期に及んだ例は,高次脳機能障害が後遺すると考えられる.後遺しやすい高次脳機能障害は,脳卒中と脳外傷でその質と程度は異なるが,注意障害,遂行機能障害,記憶障害,社会的行動障害(自発性の低下,易怒性,うつ状態など)が多い1,2).こうした後遺障害のある高次脳機能障害者が,社会参加,もしくは社会復帰をめざす場合,回復期のリハビリテーション治療が終了しても,さらに高次脳機能障害の回復および代償手段の習熟が,そして社会性を再獲得するために,生活期におけるリハビリテーション医療が必須となる.すなわち,地域でのネットワーク体制の構築が重要である.
英国リハビリテーション医学会が発刊している脳損傷者へのリハビリテーション治療に関するガイドライン3)では,脳損傷者の長期的なニーズに応える責任は,地域のさまざまな専門職(行政福祉職,生活支援,健康指導,就労支援,教育,カウンセラー,ボランティアなど)が分かち合う必要があること,そしてその長期的支援の目的は,当事者が自由に選択できる最適な社会参加活動を開始し維持できることであると述べている.また,後天性脳損傷に対するリハビリテーション医療についてエビデンスを集積し公表しているEvidence-Based Review of Moderate to Severe Acquired Brain Injury(ERABI)グループは,地域リハビリテーションについて,①急性期治療を終えた後の在宅生活では,構造化され多職種で構成された地域リハビリテーションが社会適応機能を改善させることができる,②退院後は,自宅内でのリハビリテーションよりも,地域をベースとしたリハビリテーションのほうが,より良好な機能的回復を得ることができると述べている4).
地域リハビリテーション医療において,高次脳機能障害の回復を促す大切な要素は,良好な環境下でのリハビリテーション治療である.良好な環境とは,高次脳機能障害を理解し支持的に対応できる家族を含む地域の支援スタッフと,失敗を最小限にする物理的環境および日々の生活を支える制度,当事者のニーズに答えられる地域ネットワークである.リハビリテーション治療は,認知機能の改善,社会性の再獲得,社会参加,就学・就労,生活の自立など,個々の目的に沿って(goal oriented approach),脳損傷者と治療者が共同して行う回復手技である.回復期を終えた脳損傷者に対応するため,医療機関は,さらに地域の社会資源と有効に協業していく必要がある.地域をベースとしたリハビリテーション医療の効果は,入院でのリハビリテーション治療と同程度の効果が期待されるとするエビデンスがある5).高次脳機能障害に対するリハビリテーション治療の最終の目的は,前頭葉が営む社会性(自発性,病識,自己抑制,共感など)の再獲得にあり,そのためには,病院を離れ,社会のなかでのリハビリテーション医療が欠かせない.
筆者は,急性期病院およびリハビリテーション病院に勤務した後,在宅生活を開始した脳損傷者に対し,患者・家族会と連携した外来でのリハビリテーション医療に携わってきた.あわせて東京都の高次脳機能障害者支援の仕組みづくりにも,支援をさせていただいた.本稿では,これら一連の経験から,高次脳機能障害者支援における地域リハビリテーション医療の大切さと,それを支える家族へのメンタルサポートについて述べたいと思う.
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