Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに—食事の健康効果を考えるときの基礎知識
食習慣が骨粗鬆症ならびに骨粗鬆症性骨折に関連しているであろうことは容易に想像される.特に,骨の主な構成物質であるカルシウムとカルシウム代謝に関与するビタミンDの影響が特に長年注目されてきた.後ほど詳しくみるが,ほかにもタンパク質,ビタミンK,ビタミンC,n-3系脂肪酸などの影響も示唆されてきた.ところで,栄養補助食品・サプリメントの生産・管理技術の発達によって,通常の食品を摂取している限りは期待できないほど大量に特定の栄養素や特定の物質を摂取することが可能になった.すると,同じ栄養素や物質でも,食事から摂取している量では骨粗鬆症予防にならなくてもサプリメントで(大量に)摂取すれば予防になるかもしれないというように,摂取量を考慮した検証が必要になる.少なくとも,通常の食品からの摂取を対象とした研究なのか,サプリメントで(大量に)からの摂取を対象とした研究なのかを分けて考えなくてはならない.さらに,ごく限定された食品のみに微量にしか含まれないためにこれまで注目されなかった栄養素や物質でも,サプリメントならばそれらを濃縮し,大量に摂取することができる.骨粗鬆症予防についても注目される物質(機能性物質と呼ばれることが多い)がいくつか存在する.
サプリメントや薬剤ではなく,食品から栄養素を摂取する場合,単独の栄養素を摂取することはありえない.カルシウムは乳製品に含まれ,乳製品を摂取すればカルシウムを摂取できるが他の栄養素も(自動的に)摂取することになる.また,カルシウムは乳製品以外からでも摂取できる.したがって,カルシウム摂取と骨粗鬆症予防との関連と乳製品摂取と骨粗鬆症予防との関連の結果は(似ているかもしれないが)同じではない.それぞれについて研究を行い,両者の結果を比較したうえで,それぞれの結果を実践(実際の骨粗鬆症予防対策)にどのように活用すべきかを判断しなければならない.ひとつの栄養素は複数の食品に含まれ,逆に,ひとつの食品は複数の栄養素を含む.このように,栄養素と食品はいわば縦糸と横糸の関係になっている.これは薬剤には存在しない栄養学特有のむずかしさであるa).
さらに,われわれは食品を単独で摂取しているのではない.食品を組み合わせて作られた料理を摂取している.そして食品の間には相性がある.そのため,食品ごとにその健康影響を個別に調べても実際にはあまり役に立たないことがある.そこで,特定の食品を組み合わせた食事パターンを想定し,その健康影響を検討するほうが実践的な情報を与えてくれる場合がある.また,世界各地にはその地域特有の食事パターンがあり,地域名を付けて,○○食と呼ばれることもある.これらの健康影響を検討した研究も存在する.
同じ栄養素でも,食品からとサプリメントからとではその由来と摂取量が異なるだけではない.結果(骨粗鬆症関連疾患)との関連を調べるための疫学研究の方法も異なる.食品からの摂取量との関連を調べるための主な疫学研究は観察研究であり,その中でもコホート研究が用いられることが多い.一方,サプリメントからの摂取量との関連を調べるためには通常介入研究が用いられる.この2つの疫学研究の方法は互いに異なる長所と短所をもっている.たとえば,前者(観察研究)は,対象者に属する特徴が結果に混入してしまいがちで,この問題を排除するのは難しいことが多い.また,摂取量の把握がむずかしく,測定誤差が大きいという短所もあるb).一方,介入試験は,研究(介入)期間が短く,骨折といった生活習慣病を扱うのにあまり適していないという短所がある.また,サプリメントを開発・販売する(予定の)企業の関与を排除できず,出版バイアスに注意を要する.この現実は,通常の食品による予防とサプリメントによる予防のどちらが効果的かといった疑問への回答をむずかしくしているc,d).
さらに,骨粗鬆症のリスクと骨折のリスクは必ずしも同じではない.骨密度が低いことは骨粗鬆症にも骨折にも関連するがやはり同じものではない.また,骨折の部位によってその原因は必ずしも同じではない.このように考えると,「原因(食事)×結果(骨粗鬆症関連疾患)」の組み合わせは相当数に上る.ところが,食事摂取量の定量測定は薬剤の服用量の測定よりも困難であり,それぞれの研究において観察される結果の信頼度はそれほど高くない.このことは独立に行われた2つの研究の一致度が低いことを示しており,少数の研究数から結果を導くことの危険性を意味している.そのため,本稿では結果(骨粗鬆症関連疾患)はあまり細かく分けずに骨粗鬆症予防のための食事に関するエビデンスをまとめることにしたい.また,本稿では個々の研究の紹介はできるだけ控え,それらを系統的にまとめたメタ・アナリシスを中心に,骨粗鬆症予防のための食事に関するエビデンスを概観することにするe).
Copyright © 2021, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.