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ヘテラルキーとは,あまり馴染みのない用語かもしれない.これは,「ヘテロ」(異なるとの意味)と「ヒエラルキー」(トップとボトムをもつピラミッド型の階層構造)を組み合わせたものである.ヘテラルキーとはヒエラルキーという階層固定性に相対する概念であり,各要素・各層が多重的に,並列的に,入れ子構造をとるネットワークを指す.ヘテラルキーは時にヒエラルキー的階層構造をもつが,それら階層は固定的でなく柔軟に入れ替わるような特性をもつ.これが「動的ヘテラルキー」である.当初はニューロンネットワークモデルとして提唱されたが,その後組織論や社会体制論で広く使用されるようになった.リハビリテーション医療・医学において,この動的ヘテラルキー特性という視点を入れて考えてみたい.
リハビリテーション医療においては,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,看護師,社会福祉士,薬剤師,栄養士など多職種が患者の「活動」の回復に関与する.各職種が患者の状態(外的環境も含む)に合わせて,時に主体的に,時に補助的にかかわる.意思決定権が適度に分配されたさまざまな層が,連続的に結びつけられた体制である.これは医師をトップとする階層固定的な他科の診療とは異なり,多分にヘテラルキー特性をもつ医療である.そのためリハビリテーション科医師の専門性が見えないという誤った指摘もあるが,リハビリテーション科医師はこれら組織の動的ヘテラルキー特性を十分に活用し,各職種の視点を踏まえて患者を評価し,定めた目標(最大限の活動再建)を達成するため,チームのダイナミズムを調整していくという主導的役割がある.この役割を果たすためには,医学だけでなく,運動学,社会学,医工学などさまざまな領域に精通している必要がある.
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