Sweer Spot 文学に見るリハビリテーション
トーマス・マンの『ヴェニスに死す』—感染症対策の失敗事例
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.1014
発行日 2020年10月10日
Published Date 2020/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202065
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1912年にトーマス・マンが発表した『ヴェニスに死す』(高橋義孝訳,新潮社)は,コレラ流行時に行政当局がとった不適切な対応のために主人公が亡くなるという話でもある.
数年前にガンジス川の三角州の暑熱の湿地帯に発生したコレラが次第に蔓延し,全インドを持続的かつ猛烈に荒れ狂った挙句,東は中国,西はアフガニスタン,イランへと及び,パレルモやナポリなど地中海の港にもほぼ同時に姿を現わした.それでも北イタリアは安全だったが,今年の5月中旬にはヴェニスでも水夫と野菜売りの女性の憔悴しきって黒ずんだ死体の中に,コレラ菌が発見されたのである.
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