Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
増田幸治作詞・吉田正作曲の『異国の丘』—戦後復興期の日本人を支えた名曲
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.184
発行日 2020年2月10日
Published Date 2020/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201882
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わが国の戦後を代表する作曲家の一人である吉田正のデビュー作にして出世作の『異国の丘』は,吉田のシベリア抑留中に作られた曲で,シベリア抑留者はもとより,戦後の窮乏状態にあった人々に希望を与えた歌だが,この歌がかくも多くの人の心を癒した要因には,吉田の曲の素晴らしさとともに,やはりシベリアの収容所にいた増田幸治によって書かれた詞(佐伯孝夫補作詞)が,鬱病の治療原理に適うものだったということも,与って力が大きかったのではないかと思われる。
というのも,この歌の詞をみていくと,まず「今日も暮れゆく異国の丘に」と,抑留者の心情を象徴するような情景描写に続いて,「友よ辛かろ切なかろ」と,かかる苛酷な状況に置かれた友の辛さや切なさを察する詞で始まっているからである。
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