隠れた戦中医学史 ペニシリン秘話
戦後のペニシリン工業の復興
落合 勝一郎
1,2
Katsuichiro OCHIAI
1,2
1学校法人東京文化学園
2財団法人聖路加国際病院
pp.766-767
発行日 1986年9月1日
Published Date 1986/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541208909
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長い戦争が終わった.昭和6年に始まった満州事変から実に15年ぶりに戦争のない平和な朝を迎えたことになる.しかし,戦争の傷跡は大きく,主要都市はほとんど潰滅し,戦争を支え,日本経済を支えた多くの工場も稼働できないまでに打撃を受け,悲惨な状態であった.国民も心身ともにぼろぼろになって一時は茫然自失,なすすべを忘れた感があった.このような日本全体が虚脱状態にあった中から,また新しくペニシリン事業が芽を吹き出した,戦時中,稲垣さんたちがペニシリン委員会という名のオーケストラのタクトを振った成果が,さわやかな音色のペニシリンという薬を生き返らせたのであった.
ペニシリン工業が,日本を再建する役割を担った平和産業のトップバッターとして,医業,薬業界のみならず,全産業界に喝をいれ,復興の原動力となって大きくクローズアップされて,エネルギッシュな生産活動を開始し出したのである.これはまさに,戦後再び生き返った日本の産業を語る上で特に強調できる事柄であった.
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