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はじめに
近年,慢性期の高齢の失語症者でも長期にわたり継続的な言語訓練を行うことで発語などの改善が観察されるとの報告がみられるようになってきた1,2).巨人軍名誉終身監督の長嶋茂雄氏がたゆまぬ努力でリハビリテーションを続け,言語機能を改善させ続けている事実は多くの失語症者に希望を与えるものである.しかし,慢性期になっても回復を示す失語症者や,訓練を終了してしまうと機能が低下してしまう失語症者がいるなかで,保険診療上の制約や,高齢化による通院の困難さから,やむを得ず病院での言語訓練を終了にしなくてはならない現状がある.そのため,いつ,誰が,どのような形で言語訓練を継続するかの制度を含め考える必要がある.
これに対し,information and communication technology(ICT)を利用した遠隔での訓練や人工知能(artificial intelligence;AI)技術を用いた評価機能をもつ言語訓練機器への期待は大きい.一方,言語聴覚士(ST)の数は未だ不十分であり日常業務量は増大の一途をたどっている.そのため,ICTを活用した業務の効率化を図り,本来STに期待されている患者ごとの言語訓練計画の立案および言語訓練に力を注げる環境の整備も必要である.実際,一部のSTは訓練時にiPadで写真や映像,地図,音声の提示等を行うとともに,訓練の記録をiPadで行い訓練計画に活用している.また,STの学会では失語症者向けに開発したアプリによる実践報告もみられるようになってきた3).最近では慢性期の失語症者にロボットを用いた在宅での呼称訓練も試みられており,その効果が報告されている4).さらに海外ではICT機器を用いた言語訓練に関する学術論文も増えてきており,商業ベースのサービスも始まっている〔例えばConstant Therapy Inc.(http://constanttherapy.com/)〕.AIの発展によりコンピュータと音声言語による対話が可能となった現在,言語訓練やコミュニケーション支援のあり方は変革期を迎えつつある.本稿では成人の失語症分野でのICTを用いた言語訓練やコミュニケーション支援の取り組みを紹介するとともに,現段階のICTの利用において最も有用な機能であり,かつ筆者の専門分野でもある音声認識を利用するうえでの注意点を述べる.
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