Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「奇跡の子どもたち」—寝たきりの重症児が歩行器や車椅子を動かせるようになるまで
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.1257
発行日 2017年12月10日
Published Date 2017/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201179
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近年の障害観の変革,すなわち,障害がありながらも生きる人間を肯定的に捉える思考,治らなくても人生の質が上がることが可能であるという視座,医療モデルと社会モデルの統合を志向する動きは,1990年代以降の障害者映画のテーマ設定と軌を一にしている.障害を個人の問題として,専門職が個別的に治療するというテーマは後景に退き,環境や社会のあり方,本人や周囲の者の価値観や内面形成のあり方を問う作品が主流になった.疾病・障害の治療そのものに焦点を絞った作品として筆者が想起できるのは,「レナードの朝」(1991),「ロレンツォのオイル」(1992)にとどまる.それゆえ,期せずして希少難病・芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(aromatic L-amino acid decarboxylase;AADC)欠損症の治癒過程を80分のドキュメンタリーとして描出した「奇跡の子どもたち」(監督/稲塚秀孝)は異色作なのであり,テーマ,内容の先駆性において刮目に値する.
稲塚がAADC欠損症患者の父親・山田直樹(ジャーナリスト)から取材・撮影の依頼を受けたのは2006年初秋のこと.依頼の主旨は,日本には3例のみで治療法も見つかっていない,ついては,この病気の存在を世に広め,治療法の開発につなげたいというものであった.かくして,2007年から撮影が始まる.
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