Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
奥村土牛の『牛のあゆみ』—幼児期病弱だった長寿者
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.482
発行日 2015年5月10日
Published Date 2015/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200244
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昭和49年に日本経済新聞社から刊行された『牛のあゆみ』(中央公論社)は,奥山土牛(1889〜1990)が86歳の時に書いた自伝であるが,そこには101歳の長寿を誇った土牛が,意外にも幼児期には病弱だったことが語られている.
『牛のあゆみ』では,土牛が生まれる前に,母親の胎内で一人が死に,次に生まれた女の子も1歳で亡くなったために,土牛が実質的な長子として育てられたという事実の記載で始まっている.相次いで子供を亡くした両親にしてみれば,この土牛だけは育て上げねばという思いに駆られたであろうことは想像に難くなく,「母は,せめてこの子だけは丈夫に育てたい一念ですべてを私にかけ,常に濃やかなあふれるような愛情を注ぎ,深い注意を払ってくれた」と,土牛は語っている.
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