Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
藤沢周平の『半生の記』―病いが生み出した創作活動
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.698
発行日 2014年7月10日
Published Date 2014/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110572
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藤沢周平の『半生の記』(文藝春秋社)は,『藤沢周平全集』の月報に平成4年から6年にかけて連載され,平成6年9月に単行本化された作品であるが,この自伝には藤沢周平という作家が誕生するにあたって病いが大きな役割を果たした様子が描かれている.
昭和2年に山形県黄金村(現鶴岡市)の農家に生まれた藤沢は,昭和24年に山形師範学校を卒業した後,湯田川村の中学に赴任する.しかし,昭和26年,学校の集団検診で肺結核を指摘されたため,昭和28年に上京して,保生園病院で三度にわたる手術を受けることになる.昭和32年,退院を間近に控えた藤沢は,たびたび帰郷して就職先を探すが,結核をわずらった彼に再就職の道は厳しかった.そんなある日,藤沢はかつての上司で胃の手術を受けたばかりの元校長小杉重哉を見舞いに訪れたが,そこで小杉は,藤沢の才能を生かすには東京が一番だと語ったという.かつての上司は,藤沢の文学的な才能を見抜き,田舎で職を探すよりも,東京に出て文筆で身を立てることを勧めたのである.
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