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はじめに
バイオフィードバック(biofeedback;BF)とは,「生体に起こる正常あるいは異常な現象を電子工学的装置により視覚信号や聴覚信号に変換して人に提示し,人がその信号をうまくコントロールすることにより,随意的操作ができない事象や意識することのできない事象を学習させる技法」1)と定義されている.そして,筋電図バイオフィードバック(electromyographic biofeedback;EMG-BF)療法とは,筋収縮量を光や音などの知覚信号に変換して患者に提示し,この情報を頼りに制御させることによって,目的とするパフォーマンスの向上を図る治療法である.Marinacciら2)が神経筋再教育に用いて以来,運動学習のための一手法,つまり,近年注目されている脳の可塑性に基づいたニューロリハビリテーションの基本手法として,リハビリテーション医療に広く用いられてきた.目標とする筋肉の収縮を,促通(facilitation)させるのか,弛緩(relaxation)させるのかによって大きく分類することができ,その適応は,書痙や顔面神経麻痺,嚥下訓練など多岐にわたっている3).
EMG-BF療法には,筋電アンプと視覚や聴覚などへの提示機能を備えた機器の使用が必須となる.これらのEMG-BF装置は,各メーカーより,一般者や医療従事者向けに製造・販売されているが,その価格は,数十万円から百万円近くにも及び,各施設においては,機器購入を躊躇せざるを得ない状況にある.2008年に日本リハビリテーション医学会4)が,日本全国のリハビリテーション医療施設253施設を対象にして行った関連機器に関する実態調査によると,EMG-BF機器の施設所有率は,わずか33%となっており,手関節屈曲伸展運動器やハバードタンクなど,現在ほとんど使用されていない機器と同程度になっている.一方で,購入希望率は,調査を行った運動療法機器26機器中最も高く,予算があれば導入が促進され得る,臨床現場のニーズのある機器といえる.このように,EMG-BF機器の価格は,EMG-BF療法の普及の阻害因子にもなっていると考えられる.そこで,療法士や医師,さらには患者家族が患者の自助具を作製するように,少ない費用負担でEMG-BF装置を自作できれば,EMG-BF療法の普及を促進し,リハビリテーション医療のレベルアップにつながると考えられる.また,EMG-BF装置は筋電図モニターとしても利用可能であるため,打鍵器やストップウォッチのように,療法士や医師が1人1台所持するようなリハビリテーションツールにもなり得る.さらに,患者家族が自作可能となれば,家庭において,より質の高いリハビリテーションの普及にもつながると考えられる.
本研究においては,工学的知識を十分に有していなくても,自ら部品を調達して製作することが可能な,スマートフォンを用いた低コストのEMG-BF装置を開発することを目的とした.
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