Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
岩野泡鳴の『胃病所産の芸術』―身体病と創造性
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.1156
発行日 2013年12月10日
Published Date 2013/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110346
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大正2年に岩野泡鳴(明治6年~大正9年)が発表した『胃病所産の芸術―正宗白鳥短編論―』(『近代文学評論大系第4巻』,角川書店)は,「正宗白鳥氏の芸術を推薦し出したのは,僕がその最初の人でないとしても,最初の数名中の一人だと或人が言った」という一文で始まるごとく,白鳥文学の理解者をもって任じる泡鳴によって書かれた正宗白鳥論であるが,そこでの泡鳴は白鳥文学の特質を胃病に求めるという立場に立っている.
たとえば泡鳴は,白鳥に関わる個人的な思い出を語って,「彼がとうとう猛然として短編小説家として打って出るまでには,彼の持病とも言ってよかった胃病の隋力にうち勝つ苦心もあった」,「彼のむッつりした顔付きも,煮え切れない態度も皆この病気のせいであった.彼は僕等と遊びに行っても,殆ど酒は飲まないで,菓子を食った」などのエピソードを紹介している.白鳥の胃病は若き日の生活態度にも影響を及ぼすほどのものだったと,泡鳴は証言しているのである.
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