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はじめに―総合支援法施行までの経緯
日本の障害者福祉制度はこの10年ほどの間,めまぐるしい改変を重ねてきた.2004年に支援費制度が導入され,身体,知的障害者福祉は,従来の措置制度から利用契約制度へと大きく舵を切ることとなった.その後支援費制度下で在宅福祉サービス(とくに移動支援など)の利用が爆発的に増加したとして,多くの障害者からの反対の声が上がるなか,2006年にサービス利用における応益負担を原則とする障害者自立支援法が施行されることになった.
障害者自立支援法では,身体,知的障害と並んで,新たに精神障害が法の対象となり,三障害が統合された形での総合的障害者福祉施策が施行されたこととなった.また自立支援法では,介護等給付,訓練等給付,さらに地域支援事業という事業別の給付体系となり,これまで裁量的経費で賄われていた障害者の在宅系サービスが,施設系サービスと同様な義務的経費として位置づけられた.自立支援法は,これまでの障害種別,縦割りの福祉法から統合された障害者福祉制度とされたが,そこにはさらに高齢者介護制度との統合も意図されており,自立支援法の障害程度区分とその区分に基づく支給決定の仕組みは,介護保険との統合を見据え,その骨格を障害者福祉に導入したものでもあった.
先に述べたように,障害者自立支援法では,サービス利用に際して1割の応益負担が利用者に課せられることとなった.これに対して障害当事者側から,「障害が重く,支援を必要とすればするほど,個人の負担が重くなる仕組みであり,特に先天的な障害をもつ人にとっては,他の人との平等の観点から人権を侵害するものである」という反対の声が高まり,結果として全国各地で自立支援法に対する障害者からの違憲訴訟が起きた.
しかし2009年夏に政権が代わり,民主党政権がその公約として自立支援法廃止を明記していたこともあり,2010年1月には厚生労働省と訴訟団との間で和解による合意文書が取り交わされることとなった.この合意文書では,「速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し,遅くとも2013年8月までに,障害者自立支援法を廃止し新たに総合的な福祉法制を実施する」ことが明記された.さらに合意書では,新法策定にあたっては,介護保険との統合は前提とせず,① 利用者負担のあり方,② 支給決定のあり方,③ 報酬支払い方式 ④ 制度の谷間のない「障害」の範囲,⑤ 権利条約批准の実現のための国内法整備と同権利批准,⑥ 障害関係予算の国際水準に見合う額への増額という,主に6点について十分に検討した上で策定することが明記された.
この合意文書に基づき,2010年4月障がい者制度改革推進会議の下に,障害者総合福祉部会が設置され,2011年8月までの1年半の間に,障害者総合福祉法(仮称)を策定するための検討が行われた.なお,部会の委員は55名からなり,その過半数が障害当事者,またはその家族の代表で占められ,多様な障害当事者やその関係者間で新法に向けての議論が重ねられた.
一方,この部会の議論とは別に,同時期に自民党,公明党による自立支援法改正案が国会に提出され,応益負担からの事実上応能負担化(自立支援医療は除く),相談支援事業の強化,視覚障害者の移動支援の個別給付化,障害の範囲に発達障害の明文化などが盛り込まれた.これについては,事業の施行時期が2012年度からとなっているものも多く,結局,障害者自立支援法の継続に繋がるものになるという危惧から反対の声も多く聞かれたが,最終的に民主党も法案提出に加わり,2010年12月に改正法は成立した.
総合福祉部会は2011年8月末までに18回の会議を開催し,55名の委員の総意の下,「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言(骨格提言)」を国に提出した.これを受けて,半年後の2012年2月に新たな法律に向けての厚生労働省案が部会に示されたが,法律の名称を変え,理念に共生社会の実現を加えたほかは,わずかに対象となる障害の範囲に政令で定める難病などを加えること,グループホームとケアホームの一元化が変更点として示されたのみで,自立支援法の一部改正にとどまる案であった.これについては,部会委員から大きな反発の声が上がり,その後約1か月以上をかけて見直しを求める運動や交渉が行われたが,結局3月に厚生労働省案を一部見直した形で「障害者総合支援法」案が政府により示され,閣議決定を経て2012年6月に障害者総合支援法が成立,2013年4月から施行となった.
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