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はじめに
医療においてナラティブ・アプローチが注目されるようになってきたのは,1990年代後半からであり,主として英国のグループによって,ナラティブ・ベイスト・メディスン(narrative based medicine;NBM)として提唱され1),2000年代に入って日本でも注目されるようになった2).NBM(物語と対話に基づく医療)は,GreenhalghとHurwitzによって,1998年に提唱されたムーブメントであるが,Greenhalghは後に,このNBMというタームを創出することになったいきさつを自著3)のなかで以下のように述べている.「この用語は,その時代に,EBMで頭がいっぱいになっていた医学関係の聴衆に,ナラティブというアイデアを手軽に売り込むための安っぽい宣伝文句として創案したのだと読者が考えたとしても,それは間違いとは言えない.NBMという言葉を新造したからには,この通貨がどのように流通していくのかを,私は見届けたいと思う」(訳書p108).このようにNBMというコンセプトはEBMとの関連において創出されたものであり,NBMは,EBMの医療界への急速な浸透に伴う過剰な科学性の強調や誤解に対する補完という意味合いを最初から担っていた.
GreenhalghとHurwitzは,著書の日本語版への序1)に以下のように記している.「西洋医学においては,疾患の病態を理解し,治療法を理論的に支える妥当で確実な根拠(エビデンス)を求めることに対して,このうえもないほどの熱心な努力がなされてきた.しかしそれに比べると,臨床において患者自身の体験を理解することや,患者と良好なコミュニケーションを保つことはあまり注目されてこなかった.私たちが物語(ナラティブ)に注目するようになったのは,西洋医学におけるこのような不均衡を強く感じていたためである.」幸いなことに本邦においては,EBMとNBMは二律背反的な概念としてではなく,「患者中心の医療を実践するための車の両輪」として理解されることが定着している4).
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