巻頭言
作業ができるようになること
近藤 敏
1
1広島県立保健福祉大学保健福祉学部
pp.1081
発行日 2001年12月10日
Published Date 2001/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109634
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作業を通して障害を治すことから,その人にふさわしい作業を創造していくことが作業療法の大事な視点になってきている.維持期リハビリテーションにおいてはとくにそうである.
作業療法士となって間もない頃,頸髄損傷患者のYさんを受け持った.当時(1975年)彼は28歳,ダムの工事現場から帰宅途中,交通事故に遭った.同僚の作業療法士と2人で未熟ながらも早期からいろいろと取り組んだように思う.15年後,某施設で生活しているYさんと再会し,作業療法はYさんに役立ったかどうか,尋ねる機会があった.Yさんは,革細工が良かったと言った.他にもいろんな訓練があったはずだがと思うと,少しばかり困惑した.革細工はおそらく,最初はTenodesis Actionを引き出すため,手関節背屈筋の筋力強化の手段として用いたはずだ.しかし,その後は,作業療法に来る以上,何かさせなくてはと思って与えたものだったので…….Yさんはニコニコしながら,彼の作業室に案内してくれた.そこには見事なバッグ類がいくつも置かれていた.彼は日課として革細工をやっていた.いろんな人が買ってくれるとのことであった.治療手段として与えた革細工が,Yさんにとって一日を構成する大切な作業となり,彼自身の存在と深く関わりをもっていた.革細工はたまたまYさんに意味をもつ作業となったのだと思うが,この時,その人にふさわしい作業を創造することの大切さに気づかされた.
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