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はじめに
筋の反応時間(reaction time;RT)には,被検者に光や音などの刺激を与えて即座に関節運動を起こさせ,筋活動を記録して測定する方法がある.RTは刺激から筋活動が起こるまでの筋電図反応時間(premotor reaction time;PMT)と,筋活動の開始から関節運動開始までの電気力学的遅延1)(electromechanical delay;EMD)に分けることができる.
PMTやEMDの計測では,刺激・筋活動・関節運動の開始を判断しなければならない.刺激・関節運動の開始はスイッチなどのON-OFF信号を利用するので,立ち上がりは明確かつ正確に判断できる.
表面筋電図(surface electromyography;surface EMG)を利用した筋活動開始の判断基準は,安静時surface EMGの振幅値をもとに定める場合が多い.安静時surface EMGとは,刺激を与える前のsurface EMGを指す.この判断基準はさまざまな方法で定義されており,現在のところ一定した手順がとられていない問題を有する.例えば安静時surface EMG振幅の最大値2),±2×標準偏差(以下,±2SD)値3),または整流波形(絶対値)の最大値4)を越えた時点とする,といった具合である.また,安静時のsurface EMGに関係なく,特定の値(20μV5)や30μV1,6,7),36μV8))を越えた時点を筋活動開始と判断する方法もある.しかし,これは値を決める理論的な根拠がわからず,かつ機器の種類,設定状況によって変化するかもしれないから確実性に乏しい.以上のうち,どの方法が正しいとは断言できない現状にある.さらには筋活動開始の判断方法を具体的に明示していない報告もある9-11).PMT・EMDは,上述した判断基準の違いによって異なった値を示す可能性がある.そのような状況下では,単純に報告者間同士の数値を比較,参考にできないと考える.少なくとも,各判断基準で計測された値が,どのような関係にあるか,また各判断基準の性質はどうであるかを知っておかなければならない.
本稿の目的は,筋活動開始の判断基準によって,PMTやEMDがどのように異なるかを検討することである.具体的には健常者の腓腹筋を対象として,用いらわる機会の多い安静時surface EMG振幅の最大値,±2SD,整流波形の最大値を目安とした3つの判断基準でPMTとEMDを計測し,それらの値にはどのような差が生じるか,また,それぞれの値のばらつきの大きさはどの程度かを比較する.
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