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はじめに
杖は,高齢者および麻痺や骨折などの下肢障害のために歩行困難が伴う患者にとって身近な歩行補助具である.一般に使われている杖にはT字杖,松葉杖およびロフストランドクラッチがある,これらの杖にはそれぞれ特徴があるが,杖に共通している主な役割は体重の免荷1,2),バランスを保つための支持基底面の確保2-4),および歩行効率の改善であろう1,2).
免荷を扱った多くの研究は床反力計を用いて測定を行っている5-10).これらの研究は,患者の状況が違うため報告者によってかなりの差があるが,杖使用により体重の10~30%の免荷があるとされている.また,浅見11)らは荷重計測用杖を考案して,患肢への荷重率を測定した.その結果,両松葉杖では65.0%,およびT字杖では21.1%の免荷が可能であることを示した.
Milczarek12)らは,脳卒中患者で,T字杖と4点支持杖の杖使用でバランスを測定している.これらの杖使用により,前後および左右ともに重心の動揺は減少することを示した.ただし,T字杖と4点支持杖の有意差は認められていない.Ashton-Millerら13)は,杖使用でのバランス効果は特に暗所で著しいとしている.さらに,歩行速度の向上という点でも,Elyら5)やKuanら14)は,杖の使用により効率が改善されることを確認している.
このように,多くの杖使用による利点がある反面,問題点もいくつか指摘されている1-4).山田ら15)は杖を使用して歩行すると,上肢の伸展筋群は等尺性収縮するために,心疾患や動脈硬化の患者に負担がかかることを示した.同様に今田ら4)も,杖歩行が心肺系への負担および血圧の上昇などを引き起こす可能性を指摘し,杖の処方を行う際にはこれらのことを考慮するよう強調している.さらに,原ら1)は,歩容の悪化,心肺系の悪化および上肢の神経麻痺を指摘している.杖使用による免荷,バランスおよび歩行速度などに改善がみられる一方で,心肺系や上肢への負担が増えることも事実なのである.また,実際に杖を使用している患者からは,杖を使用することにより,身体の特定の部位に痛みが起こるという訴えも少なくない.杖を使用すると,身体の特定の部位に負荷がかかり15),そのために痛みが生じることが予想される.しかしながら,杖を使用することによる身体の痛みに関する研究はなされていない.
そこで,本研究は身体に発生すると考えられる痛みに着目し,杖を使用している患者へのアンケートを通して,痛みと杖の種類,疾患および使用期間との関係を明らかにすることを目的とした.
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