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はじめに
運動失調はその障害部位により,1)小脳性,2)前庭・迷路性,3)脊髄後索性,4)大脳性の4型に分類され,各々の障害部位により特徴的な症候が認められる.
小脳は感覚入力(特に固有感覚)を受け,脳幹の前庭核を介した体平衡の制御や眼球運動の制御,脊髄,脳幹諸核への投射や視床を介した皮質運動野への投射により,筋トーヌスや立位保持,歩行を含む随意運動の制御を行う統合制御系である.このため,小脳が障害されると臨床的には筋緊張の低下,運動時の測定障害,スピード低下,dysdiadochokinesis,姿勢反射障害,眼球運動障害,眼振,自発言語のスピード低下,不明瞭言語(slurred speech),断綴性言語(scanning speech),爆発性言語(explosive speech)等と表現される小脳性言語を示す.
起立・歩行で体幹は動揺性のため広く開脚し(wide based),支持基底の小さな継ぎ足歩行(tandem gait)等は困難となる.また,歩行動作のリズムや歩幅は一定せず酩酊様の歩行となる.
前庭・迷路は体平衡に重要な役割を担っており,これらの障害では強い回転性眩暈,体位変換で増強,誘発される眩量,眼振,平衡障害を示し,立位,歩行は困難となる.
脊髄後索性の運動失調は深部感覚入力の障害による失調で,脊髄後索以外でも,末梢神経から視床への入力経路のどの部位の障害でも同様の失調は起こりうる.脊髄後索性の失調では視覚入力での代償が可能な開眼時は目立たず,閉眼により出現する点が特徴である.臨床的には,患者に立位保持させると閉眼により体幹動揺が顕著となって転倒(Romberg徴候)するようになり,歩行でも暗がりや閉眼では体幹動揺が激しく不安定で転倒し易くなる.
大脳性の運動失調は前頭葉性,頭頂葉性,視床性に分類され,各々前頭橋小脳路,頭頂橋小脳路,深部感覚系との関与により失調をきたすと推察されているが,確定的ではない.
これらの徴候の特徴を押さえ,その障害部位の推定が診断の第一として必要である.運動失調を呈する原因疾患としては血管障害,腫瘍,変性,炎症,脱髄,代謝障害等があり,その診断は病歴,臨床症状,血液・免疫学的検査や画像検査等の検査所見により総合的になされる.
本稿では変性疾患の一つである脊髄小脳変性症(Spinocerebellar degeneration;SCD)を中心にその診断と治療について述べる.
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